【先代旧事本紀】地祇本紀



■ 地祇本紀について

巻第四「地祇本紀」は、その表題のとおり地祇(国つ神)について扱われた巻です。地祇の代表的・典型的な存在とされる出雲神が主な対象となっています。

その内容は、巻第二「神祇本紀」を受けて宗像三女神の誕生から始まり、素戔嗚尊の出雲降臨、八岐大蛇退治、大己貴神と少彦名神の国造り、大己貴神の天羽車大鷲に乗っての妻覓ぎ、素兎、根国訪問、沼河姫への求婚というように、素戔嗚尊と大己貴神の事績が語られ、その後、両神の後裔を記す系譜が載せられています。
このうち、大己貴神が天羽車大鷲に乗り、茅渟県で大陶祇の娘と婚する話は他書には見えないものです。

『日本書紀』には既に大物主神と大己貴神を同一視する見解が示されており、『旧事本紀』もそれを踏襲しますが、ここに大物主神を介することなく「三輪山の神=大己貴神」がより明確化されることが注目されます。
また、少彦名神が去った後の三輪神顕現の段に、その性格について「幸魂」「奇魂」だけでなく、「術魂」も加えられ、姿についても「素き装束を為し天の蕤槍持ちて」と具体的な記述が書紀の文に付け加えられています。

後半の系譜においても、大己貴神は「倭国城上郡大三輪神社」に鎮座するとありますが、他にも葛木一言主神は「倭国葛上郡」、味鉏高彦根神は「倭国葛木郡高鴨社(捨篠社)」、下照姫命は「倭国葛木郡雲櫛社」、都味歯八重事代主神は「倭国高市郡高市社・甘南備飛鳥社」、高照光姫大神命は「倭国葛木郡御歳神社」とあるように、畿内に鎮座する神々が出雲神の系譜の中に位置づけられます。

これらの神々を祖とする三輪氏・賀茂氏らが、出自の明確化を図って系譜・伝承の整理を行っていたと考えられます。物部氏における饒速日命と天火明命の同一視に通じるものがうかがわれ、平安時代前期の氏族伝承の動向の一端を示すようです。
旧事本紀の編纂者は、畿内の三輪氏族の伝承を入手し、利用していたと見られます。大己貴神の別名を八嶋士奴美神・清之湯山主三名狭漏彦八嶋野とする所伝なども、これに拠ったものでしょうか。


『先代旧事本紀』現代語訳地祇本紀

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