【先代旧事本紀】物部職位補任 - 天皇・神皇・帝皇本紀

『日本書紀』からの抄出でほぼ成り立っている巻七・巻八・巻九ではありますが、『書紀』には見られない記述も若干あります。
物部氏の人物における、官職的地位の補任記事が、その目立った例です。氏族内部で伝承されていた尊称があり、それを元に官職的地位へと固定されていったものが、多く含まれると思われます。

内容的には、天孫本紀とおおよそ同じですが、相違する部分も存在します。
たとえば、足尼、宿祢、宿尼をそれぞれ別個の地位呼称と捉える点は天孫本紀と同じですが、大峯命(大峯大尼命)や武建命(武建大尼命)が任じられたという「大尼」は、「大祢」の表記がされており、書き分けがされなくなっているように見えます。
ほか、就任時期(仕えた天皇)などに違いのある人物もあります。
物部木蓮子連公は、天孫本紀では任賢朝の大連とされていたのが、神皇本紀では安康朝の大連とされます。両天皇の都が、ともに石上にあったとされることによる混乱が原因でしょうか。
天孫本紀に清寧朝の大連とある物部目大連公が、神皇本紀の清寧段に記載を欠くのは、この人物を雄略朝の大連にあてる『日本書紀』の記述に配慮したものと考えられます。おおむね、天孫本紀は原資料(原旧事本紀・成文化物部氏伝承)に比較的近く、天皇本紀〜帝皇本紀の独自記事はそこからさらに省略するなど『旧事本紀』編纂者の手が加わっているように見えます。

補任の年月日については、日本書紀から引いた記事に付して利用する場合と、『旧事本紀』独自の年月日が立てられている場合の両方が見られます。


就任時期
(天皇)
物部人物 職位 (補任の年月日) 天孫本紀との比較等 備考 
■ 天皇本紀
神武 宇摩志麻治命 足尼
(元年正月庚辰朔)
食国の政を申す大夫
(二年二月甲辰朔乙巳)
天孫本紀に同じ。
綏靖 彦湯支命 食国の政を申す大夫
 (三年正月)
天孫本紀に同じ。
安寧 出雲色命 食国の政を申す大夫
(四年四月)
天孫本紀は懿徳朝に食国の政を申す大夫になり、のち大臣に転じたという。
大祢命 侍臣
(四年四月)
天孫本紀に同じ。
懿徳 出雲色命 大臣
(二年三月)
天孫本紀に同じ。
孝照 出石心命 大臣
(元年七月)
天孫本紀に同じ。
孝安 六見命 足尼
(三年八月)
天孫本紀は初め足尼となり、のち宿祢に転じたという。
三見命 足尼
(三年八月)
同上。
孝霊 大水口命 宿祢
(三年正月)
天孫本紀に同じ。
大矢口命 宿祢
(三年正月)
天孫本紀に同じ。
孝元 欝色雄命 大臣
(八年正月)
天孫本紀に同じ。
大綜杵命 大祢
(八年正月)
天孫本紀に同じ。
開化 大綜杵命 大臣
(八年正月)
天孫本紀に同じ。
武建命 大祢
(八年正月)
天孫本紀に同じ。
大峯命 大祢
(八年正月)
天孫本紀に同じ。
伊香色雄命 大臣
(八年二月)
天孫本紀に崇神朝も大臣という。
崇神 建胆心命 大祢
(四年二月甲子朔丁卯)
天孫本紀に同じ。
多弁命 宿祢
(四年二月甲子朔丁卯)
天孫本紀に同じ。
安毛建美命 侍臣
(四年二月甲子朔丁卯)
天孫本紀に同じ。
武諸隅命 大連
(六十五年正月)
天孫本紀に同じ。
垂仁 大新河命 大臣
(二十三年八月丙申朔己亥)
大連
(二十三年八月丙申朔丁巳)
天孫本紀に同じ。
連賜姓により大連に転じたという。
十市根命 五大夫の一人
(四年二月甲子朔丁卯)
  大連
(八十一年二月壬午朔)
天孫本紀には、ほかに建新川命と大咩布命が侍臣という。
景行   大臣物部胆咋宿祢の娘・五十琴姫命の入内記事あり。
天孫本紀に物部多遅麻連公が大連、物部竺志連公、物部竹古連公、物部椋垣連公が侍臣という。
成務 物部胆咋宿祢 大臣
(元年正月甲申朔戊子)
天孫本紀には、ほかに物部大小市連公、物部大小木連公、物部大母隅連公、物部止志奈連公、物部片堅石連公、物部印岐美連公、物部金弓連公が侍臣という。
仲哀   物部胆咋連ら書紀の四大夫に加え、物部多遅麻連も大夫。任官記事は無し。
神功皇后 物部多遅麻連公 大連
(元年十月丁巳朔辛巳)
天孫本紀に景行朝に大連という。
物部五十琴宿祢 大連
(三年正月丙戌朔戊子)
天孫本紀に初め大連となり、のち宿祢に転じたという。
■ 神皇本紀
応神 物部印葉連公 大臣
(四十年正月辛丑朔戊申)
天孫本紀に大連という。
仁徳   侍臣の物部大別連公を矢田部の伴造に任じる記事あり。
天孫本紀に、大別連公のほか物部伊与連公、物部小神連公も侍臣という。
履中 物部伊莒弗連 大連
(元年二月壬午朔)
物部伊莒弗大連は書紀にも見えるが、任官記事は無い。
天孫本紀に反正朝も引き続き大連という。
反正    
允恭 物部麦入宿祢 大連
(二十三年三月甲午朔庚子)
天孫本紀に初め大連となり、のち宿祢に転じたという。
物部大前宿祢 大連
(二十三年三月甲午朔庚子)
天孫本紀に、安康朝に初め大連となり、のち宿祢に転じたという。
安康 物部木蓮子連公 大連
(元年十二月己巳朔壬午)
天孫本紀に仁賢朝に大連という。安康朝の大連は物部大前宿祢連公。
雄略 物部布都久留連公 大連
(二十二年正月己酉朔)

書紀の文を引いて物部連目も大連という。
物部布都久留連公を大連とすることは天孫本紀に同じ。

清寧   天孫本紀に物部目大連公(第十一世孫)が大連という。
顕宗 物部小前宿祢 大連
(元年正月己巳朔)
天孫本紀に初め大連となり、のち大宿祢に転じたという。
仁賢   天孫本紀に物部木蓮子連公が大連という。
武烈 物部麻佐良連公 大連
(二年三月丁丑朔戊寅)
天孫本紀に同じ。
■ 帝皇本紀
継体   書紀を引いた文のなかに物部麁鹿火大連あり。
天孫本紀に物部目連公(第十三世孫)が大連という。
安閑   妃に物部木蓮子大連の娘・宅媛のあることは書紀と同じ。
天孫本紀に物部麁鹿火連公が大連という。
宣化   天孫本紀に物部荒山連公、物部押甲連公が大連という。
欽明 物部尾輿連公 大連
(元年十二月庚辰朔甲申)
天孫本紀に同じ。
物部目連公 大臣
(元年十二月庚辰朔甲申)
天孫本紀に第十五世孫の物部目連公が大連というほか、物部呉足尼連公が宿尼という。
敏達 物部大市御狩連公 大連
(元年四月壬申朔甲戌)
天孫本紀に同じ。
用明 物部弓削守屋連公 大連・大臣
(敏達十四年九月甲寅朔戊午)
なぜか兼任。天孫本紀は大連のみ。
崇峻    
推古 物部鎌姫大刀自連公 参政
(十六年九月辛未朔辛巳)
天孫本紀に同じ。
物部恵佐古連公 大連
(二十二年六月丁卯朔己卯)
天孫本紀には、ほかに物部石上贄古連公も大連という。

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